5月に入り、ますます生い茂った木の葉を揺らす風が爽やかな季節になりました。外にいると夏のような暑さを感じることもある最近の気候ですが、市内にある重要文化財安藤家住宅に於いてはしばらくのあいだ過ごしやすい時期となります。
秋から春にかけては、昔の日本家屋ならではの風通しのよさ故に、住宅内にいるのにまるで外にいるような寒さを感じるのですが、ちょうどこの季節からは寒さが涼しさに変わり、昼下がりにゴロンとお昼寝をしたくなるという声もしばしば聞かれます。
また、この季節は庭を見るにも暑すぎず寒すぎず、葉の密度が上がることで出来る多くの木陰が心地よく感じます。まさに庭歩きにもうってつけと言えるでしょう。
そんな庭の中で、存在感が大きく多くの方々に強い印象を残している大きな黒松の木があります。この木は明治末期に取り付けられた避雷針があることから「安藤家の避雷針の松」と呼ばれ親しまれており、現在南アルプス市指定の文化財となっています。
根回り20メートル、目通り3.5メートル、樹高19メートルという黒松としては稀な巨木です。安藤家住宅は1708年(宝永5年)に建築され、約300年経過しておりますが、この樹木の樹齢はそれを越える年数を経ていると言われています。
言い伝えによると、もともと滝沢川左岸に生えていたこの木を水害から守るため、江戸時代前期に移植したと伝えられているのですが、近年では滝沢川堤防に生えていたこの木を取り囲む形で安藤家住宅を建築したのではないかという説もあります。
調べによると、安藤家住宅が建築されたといわれる1708年(宝永5年)に集落も合わせて現在の滝沢川が運んだ堆積物で形成された高台(微高地)である字西河原に移動したのですが、それ以前の集落は現在地より東側の低地に位置していました。以前の集落から見れば、標高の高い現在の集落は自然に作られた高台であり、河川に沿っているため堤防のようにも見え、水をせき止める役割も果たしていたと思われます。つまり、安藤家住宅が建築された頃までは避雷針の松が生えていた場所も堤防のようなものの一部という感覚だったのではないかと考えられるのです。
様々な歴史をこの地で見守り続けているこの避雷針の松。緑美しく過ごしやすいこの季節に、長年に渡る年月に思いを馳せながらじっくりご覧になってみてはいかがでしょうか。
また、毎年恒例になりました端午の節句飾りの展示を5月27日(月)までと行っています。合わせてお楽しみいただければ幸いです。
【南アルプス市教育委員会文化財課】