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南アルプス市は、山梨日日新聞社とタイアップして「南アルプス市ふるさとメール」を発信しています。ふるさとの最新情報や観光情報、山梨日日新聞に掲載された市に関係する記事などをサイトに掲載し、さらに会員登録者にはダイジェスト版メールもお届けします。お楽しみください!

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 山梨県の西側、南アルプス山麓に位置する八田村、白根町、芦安村、若草町、櫛形町、甲西町の4町2村が、2003(平成15)年4月1日に合併して南アルプス市となりました。市の名前の由来となった南アルプスは、日本第2位の高峰である北岳をはじめ、間ノ岳、農鳥岳、仙丈ケ岳、鳳凰三山、甲斐駒ケ岳など3000メートル級の山々が連ります。そのふもとをながれる御勅使川、滝沢川、坪川の3つの水系沿いに市街地が広がっています。サクランボ、桃、スモモ、ぶどう、なし、柿、キウイフルーツ、リンゴといった果樹栽培など、これまでこの地に根づいてきた豊かな風土は、そのまま南アルプス市を印象づけるもうひとつの顔となっています。

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【連載 今、南アルプスが面白い】

南アルプス市妖怪の世界~風土が培う信仰の足跡~

 妖怪やもののけ、化け物と呼ばれる類に出会ったことがありますか?かつての日本では、説明のつかないことが起こると、キツネやタヌキに化かされた、あるいは妖怪や物の怪の仕業と考えられていたようです。今回のふるさとメールでは、市内で言い伝えられている妖怪や物の怪たちの世界を覗いてみましょう。

 まず姿形を変えて人々を驚かす化けものといえばやはりキツネでしょう。市内でも寺部や豊などの他、芦安や塚原、中野、平岡など山沿いの地域を中心にキツネに化かされた話が伝えられています。その一つはこんなお話。

A001_2 【写真】キツネ
 
 隣の村へ向かう坂道を登って行くと、座るのにちょうどいい切り株に出会います。腰を下ろすとなんだか温かい。不審に思い、切り株を蹴飛ばします。暗くなった帰り道、現れた美しい女性に請われ下り坂を同行し、そのお礼にお饅頭をいただきます。ホカホカの饅頭を食べながら歩くのですが、行けども行けども家にたどり着きません。空が白みかけてくる頃、水田の中を泥だらけになって馬くそを食べながら歩き回っている自分にはじめて気づき、キツネに化かされたことがわかったのです。(上市之瀬 悪戯好きな親子狐)。
 
 似た話は他の地区でもいくつか伝わっており、人がキツネにちょっかいをだす。その仕返しに美しい女性に化けて男をだますというものです。
 
 下市之瀬のお坊狐はちょっと変わっています。鋏を持った綺麗な娘に呼ばれ石の上に座るように誘われます。座って頭をなでられると気持ちがよく眠たくなり、起きてみたら坊主頭にされていたという話です(下市之瀬 お坊狐)。鋏を持ったきれいな女性が手招きする、かなり危なそうですがそれでも近づいてしまうんですね。ちなみに娘が丸坊主にするのは色男に限られていたそうです。
 
 人にいたずらをする一方で白狐は神様とも考えられました。飯野常楽寺の白狐は御勅使川の大洪水後にこの地を訪れた円隆和尚を小高い丘へ導き、その地に常楽寺が創建されたと伝えられ、寺の守護神として祀られています。中野でも小松家の守り神として白狐が祀られていて、キツネは人々を守る存在とも考えられていました。

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【写真】飯野 常楽寺の白狐
 
 キツネの次に人を化かす動物といえばムジナ(アナグマあるいはタヌキ)でしょう。ムジナは化け物として在家塚や上市ノ瀬などで現れたと伝えられます。上市ノ瀬では行燈(あんどん)をつけて糸取り車で糸をとっている老婆が夜な夜な現れたそうです。怪しんだ村人が鉄砲で老婆を撃ち、翌日に糸取り車を撃ちましたが手ごたえ無く、最後に行燈を撃ったらムジナが死んでいたという話で、「ムジナと糸取り」として日本各地にも伝わるお話です。
 
 次に妖怪や神様を見ていきましょう。妖怪や神様はその土地の風土や文化、人々の願いを反映しています。南アルプス市では「山」と「川・水」がキーワードとなります。まずは一つ目小僧から。芦安沓沢からさらに西に入った山中で登場する一つ目小僧は12月13日、村人が山仕事を休んで正月準備をする日に現れます。その日一人山に残って仕事を終え、山小屋に戻った太郎助の前に一つ目小僧が現れます。怯える太郎助が籠る小屋の周りを一つ目小僧は一晩中うろつきました。「コトヨウカ」と呼ばれる12月8日やこの日は田の神さまが山へ帰る日と考えられ、その姿を見ないようにするため一つ目小僧が出るという信仰が日本各地で伝えられています。また、一つ目小僧自体がもともと山の神さまとも言われています(一つ目小僧がやってくる ~芦安沓沢の昔ばなし~)。

A003 【写真】一つ目小僧
 
 同じように天狗も山神と同一視される存在です。大曽利や西の山中に天狗が現れ、人を迷わせたりする一方で、迷った人々を助けてくれるという一面もありました。
 

A004 【写真】天狗
 
 山の妖怪といえば巨大な体をもつデイダラボッチが有名です。宮崎駿監督の「もののけ姫」でも山の神として登場しました。市内では加賀美法善寺の北側にはかつて沼があり、その沼が巨大な山姥の足跡だと言われていました。山姥もデイダラボッチと同じように山の神様と考えられていたのでしょう。
 
 芦安の山奥に住む夜叉神も山神と言えます。天候を司り、日照りや洪水を起こす悪い神様でしたが、御勅使川の大洪水を引き起こした後、村人が峠に祠を建てお祀りしたところ地域の守り神となったとの伝承が芦安に伝えられています。川と洪水、その源となる山を統べる神様であり、全国的にもめずらしい南アルプス市ならではの神様です。
 

A005 【写真】夜叉神
 

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【写真】増水時の御勅使川 芦安
 
 野牛島の能蔵池には赤牛の神様の碗貸し伝説が残されています(能蔵池 赤牛のわん貸し伝説)。貧しい村人が祝言でだすお椀やお膳がないことを恥て悩んでいると、当日池に漆塗りのお椀やお膳が浮いていて、赤牛の神様が貸してくれたのだと村人は信じました。しかし、返さない村人がいたことから白根山中の大笹池に逃げてしまったという言い伝えがあります。赤牛が住まう池は、御勅使川の伏流水が湧き出る場所で、かつて雨乞いが行われてきた場所です。さらにウシは雨降らしの神様でもあり、雨乞いの際神様に捧げられる供物とも考えられていました。赤牛の伝承に水を求めたこの地の人々の願いが浮かび上がってきます。 
 

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【写真】野牛島 能蔵池
 

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【写真】能蔵池の赤牛さま

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【写真】大嵐 大笹池
 
 赤牛の他、水神として龍や蛇の信仰や伝承が伝えられています。芦安の北岳の麓、白根御池には龍神が住むと言われ、水を求める原方の人々の信仰の対象でした。上高砂では洪水除けのため村中の3地点に九頭龍神が祀られています。また加賀美法善寺の島池は地下で竜宮とつながっており、日照りの時に弘法大師が行った雨乞いの際、龍が天翔け雨が降った言い伝えがあります。 

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【写真】白根御池
 

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【写真】龍神
 

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【写真】上高砂上手村 九頭龍神

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【写真】加賀美法善寺 島池
 
 市の西側を南流する釜無川の語源を伝える昔話には蛇が登場しています。貧しい男の妻に化けた蛇が両親に正体を知られ嵐の夜に旅立つ時、濁流の釜無川の中を釜の蓋の上に乗り、大蛇に姿を変えて天にのぼり黒雲の中に姿を消しました。それを見た地域の人々は恐ろしくなって釜を使わなくなったため、釜無川と名付けられたのだと伝えられています。
 
 最後に妖怪ではありませんが、平安時代京の都の妖怪を封じていた陰陽師の安倍清明が小笠原に来た伝説に触れておきましょう。清明は用水が不便であることを見て、村境を水の字にかたどり、地を卜して3か所の井戸を掘ったというもので、後に小笠原三井と呼ばれました。清明が甲斐国に来た歴史的事実はありませんが、やはり水の獲得に苦労したこの地の願いが、清明の伝説を生んだといえるでしょう。
 
 これまで見てきたように、市内にはさまざまな妖怪や物の怪、神様の昔話が残されています。それは地域の風土と文化、人々の暮らしを映す鏡であり、さまざまな自然の中に神さまを見出した日本古来の考え方に根ざしています。妖怪やその伝説を知ることは地域の文化を再発見することでもあるのです。
 
 令和元年10月26日(土)午前中に芦安で県内の妖怪が集うハロウィン、名付けて「和ろうぃん」が地域のNPO主催で開催されます。妖怪の伝承が色濃く残る地域。振り向けばあなたも妖怪に出会えるかもしれません!

【南アルプス市教育委員会文化財課】

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