今回は、雁股(狩股=かりまた)と呼ばれるヤジリに注目したいと思います。雁股は、先が二股に開き、その内側に刃のあるヤジリです。現在でも流鏑馬(やぶさめ)などで使われるので見たことのある人も多いかもしれません。
もともとは、飛ぶ鳥や走っている獣の足を射切るなど、主として狩猟用に開発されたようですが、後には鏑矢(かぶらや=音の出る矢)につけて、合戦の始まりの第一矢(嚆矢=こうし)や祭祀など特別な用途にも用いられるようになりました。
このヤジリは、発掘調査をしていると、たまに発見されることがあります
南アルプス市内ではこれまで4件の出土例があります。いずれも11世紀後半から12世紀に用いられたものと考えられます。
11世紀後半から12世紀といえば平安時代の終わり頃。貴族の時代から武士の時代へ時代が大きく動きつつあったころです。南アルプス市で発見されたヤジリも当時の武士の持ち物だったのかもしれません。
市内で発見された雁股のヤジリ
(左)寺部村附第6遺跡(若草地区)
(右)一の出し遺跡(櫛形地区)
この他に、白根大嵐地区の善応寺の裏山から1点経筒と共に発見されています。
最新の発掘事例では、平成18年秋から平成19年2月にかけて実施されていた、八田地区の野牛島西ノ久保(やごしまにしのくぼ)遺跡において、竪穴住居址の中から1点発見されています。
山梨県内では少なくとも、武士の勃興期まで人々が竪穴住居址に暮らしていたことが確認されています。この住居址が武士の家であったかどうか、発見された雁股のヤジリが、純粋な武器であるか、祭祀の道具であるかはわかりません。しかし、「武士の道具」として定着する雁股のヤジリの発見は、南アルプス市において、続く武士の時代の芽生えを感じさせる遺物ということができます。
南アルプス市では、毎年ゴールデンウィーク前後に開催されるアヤメフェアにおいて、当地ゆかりの小笠原流流鏑馬(やぶさめ)を見ることができます。今年は4月30日に開催予定です。みなさまも、疾走する人馬の圧倒的迫力に、武士の駆け抜けた鎌倉時代の息吹を感じてみてはいかがでしょうか?
【南アルプス市教育委員会文化財課】