新年明けましておめでとうございます。本年も「連載 今、南アルプスが面白い」をよろしくお願いいたします。
本格的な冬を迎え、桝形堤防の整備現場でも霜柱が立ちはじめました。現場からは例年よりやや薄く冬化粧した山々、北には八ヶ岳、南には富士山、西には巨摩山地が澄んだ空気を通して見ることができます。今月は現在進められている桝形堤防の史跡整備工事の様子をお伝えします。
【写真】桝形堤防北堤と巨摩山地
1.整備工事
(1)石積・石葺の修復
12月号(その4)でご紹介した石積の修復は、8・9月に3~15区までが終了し、12月に1・2区および17区が施工され、12月末日にほぼ完了しました。御勅使川の洪水によって流失した箇所や、堤防としての役割が終えた後壊された箇所に石積がほどこされ、堤防本来の姿に復旧されたのです。この修復によって、これ以上石積が崩れることがほぼなくなり、史跡を適切に次の世代へ受け渡すことができるようになりました。
【写真】3区施工前
【写真】3区施工後
【写真】12区(手前)13区(奥)施工前
【写真】12区(手前)13区(奥)施工後
【写真】15区施工前
【写真】15区施工後
(2)造成工:史跡の地面を整える工事
石積修復後、史跡を保存し公開するためのさまざまな工事が進められました。まず、桝形堤防の地面の高さを決める造成工が行われました。この造成はただ地面を整地するだけではなく、地面10センチメートル下に雑草の繁殖を抑える防草シートを敷埋めています。桝形堤防の周辺はかつて御勅使川の川原で砂礫が主な土壌ですが、その1(9月号)でお伝えしたように砂防で導入されたハリエンジュや雑草などの繁殖力はすさまじく、草刈りを行わなければあっという間に子供の背丈ぐらいまで草で覆われてしまいます。それを抑えるため、地面の下に防草シートを敷設する設計としました。防草シート上を造成ですきとった砂礫で10センチメートルほど埋め戻すのは、本来この場所が御勅使川の河原の中であった環境を復元するためです。
【写真】北堤北側施工前
【写真】南堤南側施工前
北堤北側 防草シートを敷設しその上に砂礫をのせています
【写真】北堤北側造成工 防草シートの上にすきとった砂礫を戻した状況
(3)フェンス・転落防止柵の設置
史跡内の安全を図るため、周辺や分水門、集水桝にフェンスや転落防止柵が設置される予定です。西側の老朽化したフェンスを撤去し、新たなフェンスが設置されました。南側は2月に施工される予定です。
【写真】先端部西側フェンス施工前
【写真】先端部西側フェンス施工前
【写真】先端部西側フェンス施工後
【写真】先端部西側境界フェンス施工後
(4)木工沈床:堤防の基礎を守る根固めの露出展示
桝形堤防の基礎を守る木工沈床の露出展示の工事も進んでいます。木工沈床には木材を水平につなぐボルトが残されているため、施工前に写真と図面で記録し、取り上げられるものは、室内で保管します。
露出展示する区画の壁は御勅使川の洪水で埋まった砂礫を表現するため、発生した砂礫を使って壁を保持するセルデム工法という方法を用いました。展示区域に「セルデム」と呼ばれる高密度のポリエチレン素材をハチの巣のように展開させ(ハニカム構造)、それを鉄筋で固定し、その中に砂礫を詰めて壁を保つ方法です。 周囲に転落防止柵を設置する予定です。
【写真】施工前木工沈床追加調査
【写真】木工沈床の丸鋼(中央)とボルト(右)
【写真】木工沈床展示範囲 斜面の整形
【写真】木工沈床セルデム施工
(5)園路と植栽
桝形堤防の北側と南側には障がいがある方でも見学しやすいように、アスファルト舗装した園路を設けることになっており、基礎工事まで終了しました。また、それぞれの園路の北側と南側には見学者が季節を感じ憩いの空間となるように、ドウダンツツジが植栽される予定です。
【写真】北堤北側 園路の基礎工事(東から)
【写真】北堤北側 園路の基礎工事(西から)
(6)その他の工事
これまで一般公開されていなかった桝形堤防内には、水量計や集水桝の覆いなどが老朽化していたため、安全が保障できない状況でした。見学者の安全性を確保するため、水量計と集水桝の蓋を新しいグレーチングに交換しました。
【写真】旧水量計測施設施工前
【写真】旧水量計測施設グレーチング設置後
(7)今後の予定
2~3月は駐車場や便益施設を設置する東側の区域の整備を行う予定です。
来年度(令和5年度)には堤防内側に芝生を植え、史跡を人々が集い見学者にとって憩いの場所となるような空間を造ります。また、展望施設や案内看板などのサインを設置し、見学者が史跡の価値とともに、徳島堰と現代の果樹栽培につながる御勅使川の治水・利水の歴史や現代の防災を学ぶことができる整備を予定しています。
2.史跡整備も大切な歴史の一頁
史跡整備の工事が進むと日々風景が変わっていきます。工事が続く中でも施工業者の協力を得て小学校やさまざまな団体の視察を受け入れました。この整備自体も桝形堤防が築堤されてから今後文化財として守り続けられていく長い歴史の中の大切な一頁です。見学した人、調査に参加した人、工事に従事した人などそれぞれがそれぞれの立場で史跡の価値と移り変わり行く堤防の記憶を伝えていただけることを願っています(2月号その6に続く)。
【写真】桝形堤防の整備状況を見学する市内小学校4年生。15校以上の市内外の小学校が見学しました。工事内容を施工業者が説明しています
【写真】整備状況を見学する徳島堰まるごとツアー参加者
【写真】史跡工事でも活躍する女性として施工業者の従業員がメディアの取材を受けました
【写真】市議会文教厚生委員整備状況視察
【写真】市教育委員整備状況視察
【写真】石工から石積の指導を受ける山梨県景観づくり推進室職員
【写真】工事中も石積の調査を行う文化財課スタッフ
【写真】市内小学4年生による社会科見学後の感想文
【南アルプス市教育委員会文化財課】