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プロフィール

 山梨県の西側、南アルプス山麓に位置する八田村、白根町、芦安村、若草町、櫛形町、甲西町の4町2村が、2003(平成15)年4月1日に合併して南アルプス市となりました。市の名前の由来となった南アルプスは、日本第2位の高峰である北岳をはじめ、間ノ岳、農鳥岳、仙丈ケ岳、鳳凰三山、甲斐駒ケ岳など3000メートル級の山々が連ります。そのふもとをながれる御勅使川、滝沢川、坪川の3つの水系沿いに市街地が広がっています。サクランボ、桃、スモモ、ぶどう、なし、柿、キウイフルーツ、リンゴといった果樹栽培など、これまでこの地に根づいてきた豊かな風土は、そのまま南アルプス市を印象づけるもうひとつの顔となっています。

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 南アルプス市ふるさとメールは、2023年3月末をもって配信を終了しました。今後は、南アルプス市ホームページやLINEなどで、最新情報や観光情報などを随時発信していきます。

【連載 今、南アルプスが面白い】

国重要文化財 鋳物師屋遺跡の土偶「子宝の女神 ラヴィ」

はじめに

 10月末までインターネットを利用した投票イベント「縄文ドキドキ総選挙2020」が開催されました。
南アルプス市鋳物師屋遺跡の土偶「子宝の女神 ラヴィ」もエントリーされ、国宝土偶「縄文のビーナス」との一騎打ち状態で優勝争いを続け、見事準優勝となりました。優勝は「縄文のビーナス」(長野県茅野市)で2191票、準優勝「子宝の女神ラヴィ」(南アルプス市)は1844票、第3位「ミス石之坪」(韮崎市)は568票でした。
 全国から30点がエントリーされた中で、なんとトップ3を「中部高地」地域と呼ばれる山梨県と長野県の土偶が占めたのでした。「中部高地」地域は、黒曜石の原産地もあり、また縄文時代中期(約5500年前~4500年前)に独特な文化を育み、全国でも有数の縄文遺跡の存在が知られる地域と言えます。縄文時代中期には、立体的な装飾や神話的な物語性のある土器が作られるなどの独特の世界観を示していることも大きな特徴で、最近ではそれらに位置する遺跡や遺物をまとめて日本遺産「星降る中部高地の縄文世界」に認定されたことでも知られます。土偶についてもまさにその通りで、中期には、立像土偶やさまざまなしぐさのある土偶などにみられるように、縄文時代の中でもひとつの盛行期を成していたと考えられます。

 「子宝の女神 ラヴィ」の愛称で親しまれているこの土偶は、南アルプス市鋳物師屋遺跡の出土で、円錐形の体を持ち独特なしぐさをしています。普段は「南アルプス市ふるさと文化伝承館」で会うことができますが、一昨年はパリの「縄文展」にも貸し出されていました。
 平成5年の調査終了後、平成7年に国の重要文化財に指定され、その後、その年のイタリアを皮切りに、マレーシア、イギリス(2回)、韓国、カナダへ貸し出されるなど海外の博物館でグローバルに活躍している、まさに縄文文化の「顔」役な土偶と言えます。
 今回からは、数回に分けて、そのように国内外で活躍する鋳物師屋遺跡とその土偶について、これまで紹介してきた内容を一歩進め、ふるさと文化伝承館で実際に受けた質問などへの答えも含めながら、一体どのような遺跡・土偶なのか、深掘りして紐解いていきたいと思います。

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【写真】土偶「子宝の女神 ラヴィ」
 
まずは「鋳物師屋遺跡」について

 鋳物師屋遺跡は山梨県南アルプス市の下市之瀬地区にあり、甲府盆地の西縁、櫛形山麓の市之瀬台地の下に広がる扇状地に立地する遺跡です。標高は約280~290mを測り、現在は漆川と市之瀬川とに挟まれた範囲に位置します。
 鋳物師屋遺跡は平成4年から5年にかけて、工業団地の造成計画に伴って発掘調査が行われました。実はこの工業団地造成に伴って主に3期に分けて工事が計画され、それぞれで発掘調査が行われたため、それらを総称して「鋳物師屋遺跡群」と呼ぶことがあります。以下の通りです。

(1) 〆木遺跡(昭和61年)約6600㎡
工業団地の第1期造成工事範囲の調査。縄文時代中期の住居址4軒、小竪穴以降2基、土壙(土坑)等と、平安時代前期の住居址33軒等を発見。
(2) 川上道下遺跡(平成2年)約2000㎡
縄文時代の小穴と、平安時代住居址16軒を発見。
(3) 鋳物師屋遺跡(平成4~5年)約13000㎡
縄文時代中期の住居址27軒、土坑、小穴等多数と、平安時代前期の住居址114軒等を発見。

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【図】調査された遺跡の範囲

 遺跡の名称は、通常は畑などで拾える遺物などから、それらが集中する範囲をひとくくりにし、便宜上その土地の字(あざ)名等を遺跡名に付けますので、今回の範囲もそれぞれ違う名前が付けられていました。しかし、発掘調査によって発見された昔の集落の範囲はそれらの遺跡をまたいで存在していることが判明しています。よって、先述した重要文化財に指定された資料の中には、〆木遺跡の出土品も含まれているのです。よく問い合わせで、「鋳物師屋遺跡」の発掘調査報告書で見つけられない土器や土偶があるというのはそのためで、「〆木遺跡」の報告書に掲載されているのです。

 鋳物師屋遺跡(群)は平安時代にも集落が営まれているなど複数の時代を併せ持つ遺跡ではありますが、縄文時代で言うと縄文時代中期の前半から中葉にかけてと(縄文時代の研究でいうところの「新道式期」と「藤内式期」という時代区分を中心とした)わりと限定された期間のみ存続した集落遺跡といえます。年代で言うと今から約5千数百年前から5000年前くらいに営まれたものと考えられます。

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【図】山梨県における縄文時代中期の主な土器型式による区分け

 縄文時代の住居址は鋳物師屋遺跡と〆木遺跡のみに限定され、31軒以上確認されています(遺跡内には住居址とみられる遺構も存在し、その遺構の扱いをどう考えるかによって軒数の考え方が変わります。過去には軒数を32軒と表示したこともありますが、ここでは、地面からの掘り込みや床が造られているなど、はっきりと住居と認定できた最低限の数として31軒以上としておきます)。

 31軒の住居は、発見された土器の特徴から、およそ7つの時期に分けることができます。その時期ごとに住居を当てはめていくと、一つの時期に同時に存在していた住居は3軒から5軒程度ということがわかりました。つまり、ムラの風景としては3軒から5軒の住居が建っているもので、建て替えや移転を繰り返す中で、最終的に31軒の住居の痕跡が地面に刻まれていたということになります。

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【図】鋳物師屋遺跡群の遺構分布の様子

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【図】時代ごとの住居の変遷の様子(住居の床面積の広さに応じて便宜的に6段階の丸の大きさで表している)

 31軒の住居址からは沢山の土器や石器の他に、土偶や土偶装飾付土器などマジカルな資料も多く出土しています。全国で2番目の土偶多産県である山梨県内の遺跡としては突出して多いというわけではありませんが、眼球のある土偶や顔をつぶされた土偶、サル型の土製品に、国宝「縄文のビーナス(茅野市棚畑遺跡)」のコピー土偶、さらには土偶装飾が前面に貼り付いた「人体文様付き有孔鍔付き土器」など、キャラクターの濃い優品が揃っているのが特徴といえます。
 また、もう一つの特徴があります。この集落は市之瀬台地の直下にあり、河川に挟まれた立地ということもあって、縄文時代の集落の跡は土石流とみられる土壌で覆われた状態で現在まで残されていました。礫を多く含んだ土壌でパックされていたため、近世以降の耕作行為でも壊されずに済んだと考えられます。そのため、通常遺跡で見られるように土器片等バラバラで見られるのが通常ですが、壊されずにまるまる形が残ったまま発見されました。つまり土中での保存状態が非常に良かったのです。
 そのため205点も一括で重要文化財に指定されています。中でもこの土偶「子宝の女神 ラヴィ(以下ラヴィ)」は遺存状態も良く作りも丁寧で、その頂点にいる土偶です。

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【写真】「人体文様付有孔鍔付土器(じんたいもんようつきゆうこうつばつきどき)」

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【写真】左から眼球のある土偶(〆木遺跡)、サル形土製品、顔をつぶされた土偶、縄文のビーナスのコピー土偶
 

「ラヴィ」は竪穴住居の床面付近から出土した

 「ラヴィ」は、57号住居址の床面近くから発見され、ほとんど全体が残っていた大型の土偶です。
 左肩と後頭部の一部を除いてほぼ全てが揃っていて、通常知られる土偶の出土状態と違い、バラバラではない状態で見つかりました。また、住居の床面で見つかったということも特徴的で、長野県などで発見された国宝土偶のように、お墓に伴うものとは性格が違うようです。
 住居から発見されたということは、土偶の中には、住居の中で使われるものがあるということを教えてくれます。置きものでしょうか?たとえばその住居に住んでいた方が作った土偶でしょうか?それとももっと前に作られて代々受け継がれてきたものだったりはしないのでしょうか?「ラヴィ」に関わる疑問は尽きませんね。

 そのヒントを探すために、次回、この土偶をまずはよく観察し、他の土偶と比較検討していきたいと思います。よく観察すると、この土偶は情報の宝庫であることがわかってくるのです。

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【写真】「子宝の女神 ラヴィ」の出土状況

【南アルプス市教育委員会文化財課】

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