早いもので平成29年も半月が過ぎ、一昨日には小正月を迎えました。南アルプス市内でも伝統の小正月行事が各地で行われ、道祖神場にはさまざまな美しいお飾りが登場しました。
1月14日は小正月です。南アルプス市内の各地の道祖神場には地域の方によって朝から飾りつけが行われます。近年では1週間前倒しして3連休に行う地域も増えてきましたが、それでも今年は14日が土曜日だったこともあり、昔ながらの日程で行う地域が多かったようです。
実は、山梨県は群馬県や長野県とともに道祖神信仰が盛んな地域といえ、小正月の行事が道祖神場で行われることが多いのです。
道祖神は村外から侵入する悪霊や悪病を防ぎとめる力のある神と言われる「塞(さい)の神」で、村人の幸せを守る神様です。
<芦安大曽利地区の道祖神>
芦安の各地区では道祖神に加工しやすいヌルデの木で作った「オデク」と呼ばれる刀・弓・男性のシンボルなどを模したものをお供えし厄払いや子孫繁栄などを祈る風習が伝わります。顔の描かれたものは「オホンダレサマ」と呼ばれています。
かつて小正月には、市内各地の道祖神場に神の依代(よりしろ)の目印とされる「神木」と、神がこもる仮神殿としての「オコヤ」が作られました。
これらは県内であっても地域ごとに飾り方に特徴があり、バリエーションに富んでいるのが特徴と言えます。暮らしている方々にとって何気ない風景の中に、南アルプス市らしさを語る資源があるのですね。
13日までにお飾りやお団子などの準備をし、14日に祭典やどんど焼きをし、どんど焼きの灰を家の周りに撒いて虫除けをし、15日には小豆粥を食べる。そんな風景がかつてはどこにでもあったようです。
「神木」
神木のかたちには県内でも多くみられる「オヤナギ」と呼ばれる柳形や、菱形の飾り、また、南アルプス市の特徴といえる梵天をさす形もあります。
市之瀬台地の周辺にある平岡区や下市之瀬区などではご神木の飾りのことや、お飾りを用意し設置する一連の作業そのものを「フジノヤマ」、「フジノオヤマ」と呼び、この地域独特の風習と言えます。
下市之瀬区や上市之瀬区のご神木には梵天だけが飾られますが、市内の多くの地域では梵天とオヤナギを組み合わせているものが多いです。ただし、中野区の神戸地区や平岡区の各小路では、梵天とオヤナギに加えて、通常東郡などでよくみられる菱形も飾りも加わるなど、様々な地域の要素が織り交ぜられた飾りになっているのが独特といえます。
平岡区ではこの菱形の飾りを「弓」と呼んでいますが、お隣の上宮地区田頭(たがしら)地区のご神木には「弓」そのものが飾られるという、これもまた全県下でも珍しい飾りとなっています。
<下市之瀬の道祖神場の飾り>
ご神木には梵天のみが飾られ、このご神木のことを地域では「フジノヤマ」「フジノオヤマ」と呼んでいます。
<上市之瀬の5組・6組の道祖神場の飾り>
上市之瀬区では各組ごとに道祖神場があり、ご神木には梵天のみが飾られます。
<小笠原区上町の道祖神場の飾り>
小笠原区は小路ごとに道祖神場があります。ご神木には梵天とオヤナギが飾られています。
<中野区宮之前地区の道祖神場の飾り>
オヤナギのみが飾られるシンプルなご神木飾りです。
<平岡区の道祖神場の飾り>
「オヤナギ」と菱形、さらに梵天も組み合わせた独特な姿の神木もあります(中野区神戸)。
今年は大雪の予報があったからかビニールがかけられていましたが、梵天と弓矢だけの珍しい神木飾りです。
「小屋」と「どんど焼き」
「オコヤ」とも呼ばれ、いくつかの形態があり、小屋形をしたものや、円錐形をした「左義長(さぎちょう)」、さらに四角柱のものなどがあります。
「左義長」は「どんど焼き」の起源とも言われ、古代・中世の宮中行事であった正月飾りや短冊などを炊き上げたもので、宮中の庭に青竹を束ねて毬杖(ぎっちょう)を結び、扇子・短冊などを添え、陰陽師(おんみょうじ)がその年の吉凶を占ったというもので、これが民間に伝わり現在の「どんど焼き」になったと言われています。
また、どんど焼きの語源については、火が燃えるのを「尊(とうと)や尊(とうと)や」とはやし立てた言葉がなまったためとか、火がどんどん燃える様子からつけられたなどと言われています。
火は古代から神聖で神が宿るものとされ、米粉で繭をかたどった団子をつくり、どんど焼きの火で焼き、その団子を食べると風邪をひかないと言われています。
山梨では、古くから養蚕が農民の現金収入を支えていたため、繭玉団子には養蚕の繁盛を祈る心も込められました。
<戸田地区のどんど焼き>
ムラマワリを終えた獅子がどんど焼きの会場となる広場に帰ってくるといよいよオコヤに火が入れられ、市内最大規模のどんど焼きが始まります。
「オコヤ」にも地域の特色がある
「オコヤ」の素材にはその地域のものが用いられるため、水田地帯では稲藁が、山沿いでは山の木々が用いられています。
市内では「左義長」形は山沿いの地域に多い傾向がみられ、小屋型のものは比較的少なく、曲輪田区に多く見られます。その他は水田地帯を中心に四角柱が最も多く、甲西地区戸田や宮沢の「オコヤ」は規模が大きく圧巻です。また、甲西の滝沢川沿いでは各地区のオコヤが並ぶ姿もまた風物詩となっています。ただし、市街地を中心にオコヤ自体を作らずに通常の焚き火のようにどんど焼きを行う地域も増えてきました。
<戸田区のオコヤ>
戸田のオコヤは4m四方で市内最大規模です。地区の男性陣が組み上げます。今年は雪の降った8日に行われたため雪の積もったどんど焼きとなりました。
左義長形のオコヤで、山の木を用いて建てられています。
<桃園区のオコヤ>
桃園区でも同じく左義長形のオコヤですが、周囲の稲藁を用いて建てられています。(平成20年撮影)
水田地帯では稲藁を用いたオコヤが多く、小屋形や四角柱のオコヤが多いのが特徴です。(平成20年撮影)
<曲輪田区峰村小路のオコヤ>
曲輪田峯村小路のどんど焼きは14日に行われ、小屋形のオコヤを建て、火入れのまえに高砂を謡い、その後道祖神場で獅子舞を奉納するなど。伝統が色濃く伝わる地域のひとつといえます。
【獅子舞】
かつては小正月行事に獅子舞は付き物でした。今でも下市之瀬区や曲輪田区峯村小路では「ムラマワリ」といって全戸をまわり幕の舞や梵天の舞を舞う伝統が継承されておりますし、また、新婚や出産、新築などのようなお祝い事のあるお宅には家の中へで舞う「舞い込み」も行っています。西南湖区ではお祝いのあるお宅への舞い込みが残されており、ほかの地域でも、舞の種類は継承されなくても獅子舞が村を廻るもの、また、鏡中條区や平岡区のように道祖神場へ獅子頭だけを供えるものなど、地域によって簡略され具合が異なるものの、かつての名残を伝えています。
<曲輪田峰村小路の獅子舞>
どんど焼きの火入れをした後に道祖神場にて獅子舞(幕の舞・梵天の舞)が奉納され、翌日には集落全戸をめぐるムラマワリが行われます。市指定無形民俗文化財。
下市之瀬の獅子舞は、雌獅子であり、また、段物と呼ばれる江戸時代人気だった物語も舞われるのが特徴で、この伝統は西南湖地区へも伝承されていきます。
今年はムラマワリは8日に行われ、全戸で梵天の舞を舞って火伏せを願い、お祝いのあるお宅には舞い込みを行います。また、どんど焼きの火には道祖神場で舞いが奉納され、奉納直後に火が入ります。県指定無形民俗文化財。
西南湖の獅子舞では集落内の舞い込みの際に国指定重要文化財の安藤家住宅でも舞われます。
今年も安藤家の奥座敷には段物と呼ばれる梅川忠兵衛が舞われました。市指定無形民俗文化財。
市内各地の小正月
どんど焼きのあとの灰は、家に持ち帰り軒下にまくと悪い虫が出なくなるとか、田畑にまくとその年の作柄が良くなるとして、それぞれまかれたそうですが、最近ではほとんどみられない風景となってしまいました。
それでも、オヤナギや梵天は祭典の後に各家に配られ、屋根の上にのせて火伏せを願ったり、厄除けをしたりする風習はまだまだ市内各地に残されています。
小正月の行事は道祖神場のお祭りだけでなく、上八田地区のように百万遍念仏を唱える行事が伝わる地域もあります。
それぞれの地域でそろぞれの小正月行事が受け継がれているのです。
正月の終わりとも位置付けられる小正月の日に一年の無事を祈るこの伝統行事、これからも守り伝えていってほしいですね。
それでは、今回はこの辺で。今年もよろしくお願いします。
【南アルプス市教育委員会文化財課】