南アルプス市では稲刈りも終わり、柿の収穫が始まりました。木々の葉が色づき秋もしだいに深まっています。今回のふるさとメールでは、ささやかな秋を感じられる紅葉スポット、能蔵池をご紹介します。
【写真】能蔵池の新緑(左)と紅葉(右) ※2005~06年撮影
能蔵池は市北部の八田地区野牛島にあります。小学校のサッカーコートほどの小さな池ですが、新緑のころやこれからの季節がお薦めで、池のほとりから鮮やかな紅葉を見ることができます。
さて、この池にはこんな伝説が伝えられています。
ある晩のことです。野牛島村の娘さっちゃんは、一人で池の縁に立ち、誰に言うともなく明日の結婚式で使う食器がないことを嘆きました。さっちゃんの家はもちろん、どこの家でも欠けた茶わんに欠けた湯のみしかなく、お客さんに出せるような食器はなかったのです。
ところが式当日、池に行ってみると、おわん、丼、皿、ちょこ、お膳までみんなそろっているではありませんか。みんな驚き、誰が用意したのかと不思議がりました。すると、そこへ長老が来て「この池には、昔から赤牛さまと呼ばれる神様が住むっちゅうど。その赤牛さまじゃねえずらか」と言いました。村の人たちは大喜びでありがたがり、それからは人寄せがあると能蔵池へ来て、おわんやお膳を貸してほしいと頼むようになりました。赤牛さまはそんな村人の願いをちゃんと聞いてくれました。
ところが、あるときこの願いが聞いてもらえないことが起こりました。それは借りたおわんやお膳を返さない不届き者がいて、赤牛さまが怒って能蔵池から姿を消してしまったからです。それからは村には悪いことばかりが起こりました。そこで、村人たちはお金を持ち寄り、能蔵池の真ん中の島へ祠(ほこら)をたてました。しかしそれでも赤牛さまは二度と帰ってきませんでした。赤牛さまは、甘利山のさわら池に移り、その後、さらに奥の千頭星山にのぼって大笹池に住んだということです。
この赤牛伝説のほかにも、能蔵池には、持ち上げると願いがかなう「掲げぼとけ」や白山権現の石祠が池の中央に祀られ、周辺には人頭蛇身の宇賀神(うがじん)を祭る稲荷神社や中世の供養塔である石幢(せきどう)などさまざまな信仰や歴史の足跡が残されています。また、池の隣には市内で発掘された出土品を展示し、歴史を体験できる「ふるさと文化伝承館」があります。地元の歴史に思いを馳せながら、小さな秋を見つける散歩を能蔵池で楽しんでみてはいかがでしょうか。
【イラスト】ふるさと文化伝承館のイメージキャラクター(土偶のお面をかぶっています)
※現在能蔵池の中島へは渡ることはできません
【写真・左】白山権現の石祠と揚げぼとけ
【写真・右】石幢とエドヒガン
◆南アルプス市 ふるさと文化伝承館のリンクはこちら
【南アルプス市教育委員会文化財課】