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プロフィール

 山梨県の西側、南アルプス山麓に位置する八田村、白根町、芦安村、若草町、櫛形町、甲西町の4町2村が、2003(平成15)年4月1日に合併して南アルプス市となりました。市の名前の由来となった南アルプスは、日本第2位の高峰である北岳をはじめ、間ノ岳、農鳥岳、仙丈ケ岳、鳳凰三山、甲斐駒ケ岳など3000メートル級の山々が連ります。そのふもとをながれる御勅使川、滝沢川、坪川の3つの水系沿いに市街地が広がっています。サクランボ、桃、スモモ、ぶどう、なし、柿、キウイフルーツ、リンゴといった果樹栽培など、これまでこの地に根づいてきた豊かな風土は、そのまま南アルプス市を印象づけるもうひとつの顔となっています。

お知らせ

 南アルプス市ふるさとメールは、2023年3月末をもって配信を終了しました。今後は、南アルプス市ホームページやLINEなどで、最新情報や観光情報などを随時発信していきます。

【連載 今、南アルプスが面白い】

南アルプス市の道祖神さん

はじめに

 早いもので令和3年も一月半が過ぎ、暦の上では春を迎えています。今年は節分の日にちが1日早まるというこれまでにない経験をしましたが、コロナ禍の影響で寺院などでの豆まきのイベントもほとんどが中止だったようです。実はちょうど一月前の小正月の日も、いつもと違う過ごし方をした方も多かったのではないでしょうか。
 例年1月14日には、南アルプス市内各地で伝統の小正月行事が行われ、道祖神場にはさまざまな美しいお飾りが登場し、どんど焼きが行われています。しかし、今年はコロナ感染拡大の対策としてどんど焼きを中止にしたり、飾り付けを簡素化する場所も多くあったとお聞きします。

 道祖神は村外から侵入する悪霊や悪病を防ぎとめる力があると言われる「塞(さい)の神」で、村人の幸せを守る神様です。本来であれば、このような情勢の時こそ、むしろ道祖神さんのお祭りをするべきだったと言えます。
 実は、山梨県は群馬県や長野県とともに道祖神信仰が盛んな地域といえます。特に山梨では小正月の行事に絡めることが多いのが特徴で、先述したようにご神木に様々なお飾りを施したり、どんど焼きのオコヤが建てられたりします。これら小正月行事については過去の記事(平成29年1月15日号)でもご紹介をしているので併せてお読みください。

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【写真】小正月の様子

 実は隣の地区の道祖神のことってあまり知らなかったり、道祖神場は知っているものの、いくつも石造物がまとめてあってどれが道祖神さんかわからないままどんど焼きだけ参加しているという方も少なくないようです。今回は、そもそも市内の道祖神さんについて、どのようなものが、どのくらいあるのかなどを探っていきたいと思います。


道祖神さんって市内にはそんなにないでしょ?

 文化財課で取り組んでいる「ふるさと〇〇博物館」のプロジェクトでは、道すがら出会える何気ないものを記録しています。石造物もたくさんあってその地区の特徴を見出すことができますが、どの地区でも必ず出会えるのが「道祖神」さんと言えます。今回知りうる限りほぼ全ての道祖神さんをマップに配置することができ、その数はなんと195地点!にのぼりました(まだ確認できておらず落とし込めていないものもあります)。

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【写真】〇博アーカイブで道祖神だけを表示した画面

 まだ、全体を把握することで精いっぱいでしたので、歴史的な背景などを掘り下げることはできていませんが、分布と石造物の形態は把握できていますので、それらを整理してみたいと思います。
 南アルプス市で道祖神さんというと、どんど焼きやお飾りなど、小正月の道祖神祭りを思い起こす方が多いと思います。厄除けや無病息災、子授け、五穀豊穣など、村人の様々な願いが込められています。
 道祖神は道端にあって、道を行き交う人々を見守る神様と考えられることが多いですが、道と道が交わる辻にあったり、それが集落の境界や入り口であることから、疫病神、厄神、悪霊などが外部から集落に侵入してこないように、塞(ふさ)いで村人を守っていただくという願いも込められています。
 飯野地区などでは、夏に道祖神場にチョウマタギを飾って、夏の道祖神祭りが行われています。これも、元々は夏場に流行する疫病が集落に入ってくるのを防ぐという願いが込められた風習と考えられています。
 また近世には、感染症である天然痘を防ぐ目的で疱瘡神(ほうそうがみ)が祀られることもあり、上今井地区のように道祖神場に一緒に祀られる場合もあります。
 これらのように道祖神は各集落(かつての小路ごとの場合が多い)ごとに祀られているため、市内各地でこれほど多く存在するのです。


形態による道祖神さんあれこれ

 道祖神のご神体は石造物が多く、山梨県では球体の石(「丸石」)を祀ることが多いのが特徴です。南アルプス市内では、「丸石」よりも「自然石」を用いたものが多く、形態などからの種別を分類していくと以下の通りです。通常は「自然石」か「丸石」か「文字碑」かの3種程度に分類されるのですが、市内の形態的特徴からさらに細かく分類してみました。また、形態とは別に道祖神さんとして扱われているほかの神様も判別できるようにしています。
内訳は以下の通りです。

自然石:93基
石祠:48基
丸石風の自然石:23
小さな丸石風自然石を複数:9
丸石(正円の球体):7
双体像:5
八衢神・衢神:4
塞神:2(3)
猿田彦:2
文字碑:1
男根形:1

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【写真】南アルプス市道祖神分布地図

 種類ごとの内訳は上記のとおりですが、市内の実態に合わせて少し細かめに分類していますので、いくつか注意点があります。圧倒的に多いのが「自然石」となりますが、この中にはいびつな形をした自然石と、細長い楕円形の自然石などがあり、文字が刻まれていても、石全体に人工的な加工がなければ「文字碑」とはせずに「自然石」に分類しています。文字碑としたのは明らかに板状に加工してあった落合地区の八王子社の中に祀られている道祖神さんだけです。ただ、加工されていない自然石でも正円の球体に近いものは、いわゆる「丸石」として祀られているものとみられることから「丸石風の自然石」としています。これはむしろ「丸石」にまとめても良いかもしれません。現状では「丸石」としたものは完全な正円形に加工されたもののみとしています。これらを合わせると「丸石」グループは合計39基となります。
 また、形態ではなく、表記から分けたものが猿田彦や八衢神、塞神などですが、これらは地域では道祖神として認識され祀られていますのでここで一緒に扱っています。


種類ごと地域ごとに特徴が見えてくる

 まず、全体を俯瞰してみましょう。市内全体、集落があるところには道祖神さんがあることがよくわかります。この図は現在確認できたもののみが配置されていますので、過去の記録でにはあるもののまだ確認できていないものがまだございます(皆ざまからの情報をお待ちしています)。ただ現状でも十分に道祖神さんの位置と特徴がわかります。
 市内の各築の中でもさらに「小路」ごとに設置されているのが通常です。しかし、道の拡幅工事等によって移動したり、集落で一か所にまとめるというようなこともあります。西野地区は集落内の半分以上が諏訪神社に集められていますし、秋山地区も秋山区公民館の前に二つ分が一つの基壇上にまとめられています。大師集落では街角に今も祀られているものと天神社に集められたものとがあります。

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【写真】西野地区諏訪神社に集めら祀られている道祖神さん

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【写真】秋山地区の道祖神

自然石
 地図をパッと見て、やはり「自然石」を示す緑色のマークが圧倒的に多く、市内全体に存在することがわかります。また上今諏訪や下今諏訪、桃園、上宮地、小笠原などでは集落全体でほとんどが「自然石」を用いているように、地域ごとに形態が統一されているような傾向がつかめます。ただ、そのような中で例えば下今諏訪集落のように一か所の小路だけ双体道祖神が祀られていることはとても興味深いです。双体道祖神については後ほどまた触れます。また上市之瀬集落の中村小路(3組)の道祖神さんは地域の力自慢の若者が笛吹川の方から運んできたものという伝承も地域には残っていました。このような背景についてはこれからさらに調査を進めていく予定です。

桃園
 桃園地区では古くからある小路4か所全てで縦長の自然石を用いられていますが、特徴としては同じ道祖神場に秋葉さんやお蚕の神様(蚕神や蚕影大明神が混在)も同じく縦長の似たような形の自然石を用いて並べていることです。

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【写真】桃園地区の道祖神場

上宮地
 しかしお隣さんの上宮地地区では4か所あるすべての小路で、自然石の道祖神さんと石祠の秋葉さんがセットで一つの基壇の上に並んで祀られています。お隣さん同士ですが、集落ごとに違ったルールで道祖神さんが祀られていることがわかります。石祠は市内では山の神さんや屋敷神さんに用いられることが多いのですが、秋葉さんだったり道祖神さんだったりと様々な神様に用いられているようです。

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【写真】上宮地地区の道祖神場(右側が秋葉さん)

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【写真】上宮地地区の道祖神場(右側が秋葉さん)

石祠
 その石祠の道祖神さんについてみていきましょう。市内では2番目に多い形態です。分布状況がはっきりしており、北部にも数基は見られるものの、おおむね西野集落ラインより南側の、若草、櫛形地区に多いように見えます。加賀美地区では一つの小路を除いて石祠が集中していますし、東南湖地区では2小路とも石祠です。中野地区も特徴的で、従来の中野集落では三小路とも全て富士山の眺望ポイントに石祠が祀られているのに対し、同じ中野地区でも神戸集落の二小路では自然石で統一されている点です。村の成り立ちにより特徴もみえてくるようです。
 石祠で特筆すべきなのは平岡地区です。平岡集落は4つの小路すべてに道祖神さんがあり、全て石祠で統一されています。それだけでなく、全てが朱色に塗られた屋根塀で囲まれた社のような造り(このような造りは江原地区などにも見られます)をしています。また、小正月のご神木飾りはひし形(弓)にオヤナギに梵天を組み合わせるといった凝ったつくりで統一されているのも特徴です。

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【写真】中野地区の道祖神

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【写真】平岡地区の道祖神

双体道祖神と男根型
 全国的には、道祖神というと双体道祖神さんや男根形の石造物を思い浮かべる方も多いようです。どちらも子孫繁栄などを主に願ったものとされますが、南アルプス市ではそれほど多くはありません。メインの道祖神さんの横に細長い石を立てたものは数か所で確認できますが、男根型に加工した石造物は小笠原に1基確認できるのみです。
 また、長野県では沢山みられる双体道祖神さんは、南アルプス市では5基にとどまり、その傾向はつかめておりません。上今井・下今井・下今諏訪に1基ずつあるのは近隣地区なのでなにか意味があるかもしれません。また、須沢地区に、石造物が集められている場所に双体道祖神さんとみられる石造物も集められていました。どこにあったものかは不明です。

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【写真】下今井地区の双体道祖神さん 肩を組み、手を取り合っているのがわかります。 

丸石道祖神
 山梨の道祖神と言えば何といっても「丸石道祖神」さんです。全国的にみても「丸石」を祀るのは山梨の特徴と考えられています。南アルプス市でも、きれいに加工した丸石以外に球体に近い自然石や丸い自然石を集めたものなどを合わせれば39基となりますし、自然石へ分類した中にも丸石を意識したと考えられるものもあるため、それらを加えれば石祠に近い数があるとみられます。
 丸石道祖神の分布も傾向がみられ、北と南に分布が集中しています。北では有野地区では4小路全て、徳永地区で3小路全てが丸石で、南は甲西地域の西南湖から落合にかけての辺りにも分布の集中がみとめられます。また、もう一つの特徴として、市北部では駿信往還(旧国道52号)沿いも丸石である傾向がみとめられます。さらに、曲輪田新田地区も特徴的で、2か所とも小さな丸石が沢山詰められた状態で祀られています。

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【写真】有野地区の道祖神さん

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【写真】西南湖地区の道祖神さん

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【写真】曲輪田新田の道祖神さん

 道祖神さんの形態については以上見てきた通りですが、実はどの道祖神さんにも共通するのは、どのような形態であっても、基壇上にはメインの石以外に、小さな丸い石が集められていることです。メインは石祠であっても、自然石であってもほぼ全て、丸石が複数集められています。やはり丸石に対する信仰が根強くあることに間違いは無いようです。

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【写真】上宮地風新居地区の道祖神場

曲輪田集落の不思議
 以上市内全体での形態的な分布の傾向などを概観してきました。やはり地域ごとに同じ形態を採用していることや、ほかの神様とのセットでの祀り方が統一されているなどの特徴が見えてきました。
 しかし、そのような中で曲輪田地区が不思議な存在と言えます。「自然石」、「石祠」、「複数の丸石」、「丸石風の自然石」と4つある小路がすべて違う形態の道祖神さんなのです。このような地区は市内のほかの地区にはありません。

そのほかの神様
 形態の特徴以外ですと、石造物本体に「八衢神」や「猿田彦」などの道の神様や悪霊が村に入るのを塞ぐ「塞神」などの名が刻まれ、道祖神さんとして地域で祀られているものも若干数みられます。東落合集落や鏡中條集落に「八衢大神」とある以外はほとんど百々集落や上八田集落などのように市内北部に集中しています。これらは皆自然石を用いています。
 また、現在は地域住民から道祖神としては祀られていませんが、道祖神と同じような役割を果たしていたと考えられる「西(塞)の神地蔵」が野牛島にあります。天文13(1544)年に建てられた古い板碑で、「八田庄」の文字が刻まれている貴重な史料です。

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【写真】百々の猿田彦

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【写真】東落合の衢大神

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【写真】野牛島の西の神


まとめ

 以上、ふるさと〇〇博物館では市内の道祖神さんを網羅しようと取り組み、まだ完全とはいえませんが、ほぼ網羅できてきましたので速報させていただきました。現時点では形態の特徴をまとめてみただけですので、どうしてそのような石を用いたのかなどの背景の物語についてはまだまだこれから精査を進めていくところです。ぜひぜひ皆さまからの情報もお待ちしています。この段階でふるさと〇〇博物館のサイト「〇博アーカイブ」南アルプス市◯博アーカイブ (maruhakualps.jp)には配置ずみですので、ぜひ〇博アーカイブでご覧ください。現時点で位置だけ示して写真が配置できていない場所が数か所ありますし、詳細な情報はまだまだ充実させている途中ですのでご了承ください。

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【写真】〇博アーカイブ 道祖神だけを表示した画面の例

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【写真】〇博アーカイブ 道祖神だけを表示した画面の例

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【写真】〇博アーカイブ 道祖神だけを表示した画面の例

※リンク先のサイトでは自動で動画再生した後に全てのデータが表示されますので、左側の検索アイコンで道祖神と入力していただければ道祖神開けが表示されます。

 道祖神さんは私たちに最も身近な存在と言える神様です。ただ、地域には、氏神様と呼ばれる神社のほか、お稲荷さんや秋葉さん、山の神さんなど多くの神様が祀られていますので、実は道祖神さんがどれか知らないという声も多く聞きます。また、道路の拡幅工事などに伴って石造物が移動していたり、神社境内に集められたりする事もあり、余計にわかりにくくなっているようです。
 ただ、道祖神さんを観察してみると、江戸時代の年号が刻まれているものや平成に修理したものまであり、移動しながらも、長い年月をかけて大切に受け継がれてきたことが伝わってきます。
 隣の地域の道祖神さんを気にすることもなかったでしょうから、このような情勢を機に、村人の幸せを守り、疫病や悪霊から守って来たご近所の神様を訪ねてみてはいかがでしょうか。

【南アルプス市教育委員会文化財課】

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