前回、日本を代表する縄文遺跡である「鋳物師屋遺跡」の土器からわかった食生活についてご紹介しました。「レプリカ法」の研究ではまだまだ面白い成果があり、今回は、ある説を後押しすることとなった発見についてご紹介いたします。
■「人体文様付有孔鍔付土器」
鋳物師屋遺跡は南アルプス市下市之瀬にあって、土偶「子宝の女神 ラヴィ」など205点が国の重要文化財に指定され、海外展にも何度も貸し出されるなど、日本縄文文化を代表する約5000年前の縄文遺跡です。
土偶同様に、土偶が土器の表面に描かれた「人体文様付有孔鍔付土器」も世界的に知られる土器です。この愛嬌のある顔だち、踊っているかのようなしぐさ、これほどの大きな土器に具象的にはっきりと描かれているものは非常に珍しく、秀逸なものといえます。
この土器の形も特徴的です。樽型の形に、口縁には穴がめぐり、その下に鍔のようなふくらみもめぐります。これを「有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)」といってこの土器事態も一つの集落で少ししか持っていないため、特殊な用途の土器だと考えられています。
正確な使い道は判明しておりませんが、研究者の中では思い二つの説が唱えられています。
主な説の一つは口の部分に鹿などの皮を貼って太鼓として使われていたのではないかという説です。ただし、これは、土器の詳細な観察から、太鼓として使われた際に発生する痕跡が見当たらず、有孔鍔付土器そのものが太鼓として使われたと考えるのは難しいと言われています(木製の太鼓を象って作られた土製品ということは考えられます)。
対してもう一つの説は、蓋をして果実を発酵させそのガスを抜くために穴があると考えた酒造器ではないかとする説です。
【写真】「人体文様付有孔鍔付土器」
大きな胴体に踊っているかのような人体(女神)の文様が描かれているのが特徴で、抽象的でなくこれほどまでに具象的な文様は珍しいです
■酒造説
酒造を示す直接的な証拠はなかなか見つかりませんが、青森県の三内円山遺跡など東北地方の遺跡を中心に、ニワトコの果実やショウジョウバエの一種が大量に検出された例があり、ニワトコを用いた醸造の可能性が示されています。ほかに土器の中からヤマブドウが出土する例もあることから、果実酒などの醸造が行われていたのではと考えられているのです。
鋳物師屋遺跡の有孔鍔付土器はその表面に土偶と同じ女神像が描かれており、ここまで大規模な土器では珍しく、明らかに日常生活ではなく祭りなどの非日常で使われたものと考えられます。
実は、これまで山梨県ではニワトコの種実の圧痕は発見されていなかったのですが、なんと、鋳物師屋遺跡の土器片から、山梨で初めてニワトコの圧痕が発見されたのです。祭りの象徴ともいえる「人体文様付有孔鍔付土器」を出土している鋳物師屋遺跡で確認されたことに大きな意味があり、明らかに鋳物師屋遺跡においての醸造の行為を彷彿させるのです。
これは山梨県で唯一の発見であり、1ミリにも満たない小さな痕ではありますが、山梨での酒造説を後押しする大切な発見といえるのです。
このように、鋳物師屋遺跡の土器を最新の研究法で詳しく調査・研究することで、有名な土偶や土器だけでなく、鋳物師屋縄文人たちの暮らしぶりをイメージさせる証拠が沢山再発見されるのです。現在調査できているのはほんの一部の土器片ですから、今後の継続によって、まだまだ、今までに知られていない縄文時代像が見えてくるかもしれませんね。
縄文は奥深いのです。しかもそのことを南アルプス市の遺跡が教えてくれるのです。
【写真】ニワトコの顕微鏡写真
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ふるさと文化伝承館
エントランス展示「縄文土器のデコボコの秘密~土器の表面には秘密がいっぱい~」
期間:平成27年12月16日(水)まで(木曜休館)
時間:9:30~16:30
入館・見学無料
【南アルプス市教育委員会文化財課】