2012年が幕開けし、昨年開始した「根方の魅力」シリーズもちょうど1年を迎えました。南アルプス市では比較的穏やかな新年を迎えたような気がしますが、皆様はいかがでしたでしょうか?苦難・困難を乗り越え、輝かしい未来へと突き進む一年にしたいものです。
「今、南アルプス市がおもしろい」の連載も6年目を迎えています。南アルプス市の歩みをひも解き、知られているようであまり知られていない南アルプス市の姿や、歴史に裏付けられた魅力を皆さんと共有したいとの思いからスタートしました。紹介してきた内容を振り返りますと、私たちには水害や旱魃(かんばつ)などいくたびの困難を乗り越えてきた、たくましいDNAが受け継がれているように思えます。
一方、困難に遭遇したときに、これを乗り越えようと祈りや願いを捧げた人たちの信仰の姿を伝える跡も多く残されています。シリーズで紹介してきた根方地域にも神社や寺院、さまざまな伝統行事が色濃く残っており、信仰心の厚い地域だったといえるでしょう。
昨年から続けてきた根方シリーズも、まだまだご紹介したい魅力はたくさんあるのですが、今回でいったん締めたいと思います。今回紹介しきれなかった事物については、いずれ根方シリーズの第2弾をと考えていますが、今回はその予告編的な意味合いとして、これからも紹介していきたい根方の魅力を目次紹介的に挙げてみましょう。
祈り~古刹(さつ)・名刹~
根方地域の数ある寺社のうち日蓮宗の「妙了寺」と曹洞宗の「伝嗣院」は二大名刹ともいえる寺院で、櫛形地区に存在する寺院は一寺を除き、すべてがこの二つの宗派に属し、そのほとんどが、かつてはこの二つの寺院の末寺だったのです。甲府盆地を見渡す台地上に並ぶこの寺院は、江戸時代にまとめられた『甲斐国志』の伝嗣院の項に「高爽ノ地ニシテ遠ク望メバ妙了寺ト相双ンデ各々壮観ナリ」と称された存在です。
【写真】伝嗣院(左:山門、中:鐘楼から甲府盆地を眺める、右:『日本社寺明鑑』日本社寺明鑑発行所 明治36年)
大神山伝嗣院は15世紀末に三輪明神(現在の下宮地地区神部神社)の神主・今沢重貞が三輪明神の山宮のある地(上宮地)に開いた寺院で、盛時には58カ寺もの末寺・陪院を持つ寺院だったそうです。県の文化財に指定されている大般若経六百巻や小堀遠州の庭園、武田・織田の文書も伝わるなどまさに名刹といえます。
現在は伝嗣院内にあった三輪神社は上宮地の八幡神社境内へ移されています。現在4月に行われている西御幸祭は、もともとは春に伝嗣院(山宮)から神部神社(里宮)へ、秋には里宮から山宮へと御神輿(おみこし)が行き交っていたもので、その神の通る道筋のエリアがそれぞれ上宮地・下宮地という地名で残されているのです。根方と原方とのつながりがよく見える例といえます。
もうひとつの古刹、高峯山妙了寺もまた山梨を代表する寺院の一つです。日蓮宗の触頭(ふれがしら)を勤め、山梨県内では身延山久遠寺に次ぐ位置付けといえ、又の名を「うらみのぶ」とも呼ばれているのです。昭和24年の火災により伽藍(がらん)の多くが焼けてしまいましたが、塔頭(たっちゅう)も六坊あるなど広大な境内を有し、25カ寺の末寺がありました。
【写真】妙了寺(左:山門 右:『日本社寺明鑑』日本社寺明鑑発行所 明治36年)
妙了寺はもともと中野地区にあった妙竜寺という真言宗の寺院でしたが、鎌倉時代に日了によって新たに日蓮宗として再興されたものです。その日了の母・日仏は中野の出身ですが日蓮宗の開祖日蓮の直弟子です。中野には日仏が開いた草庵、現在の「妙行寺」もあり、妙了寺、妙行寺ともに鎌倉時代からの歴史を誇るさまざまなエピソードが伝わっています。
【写真】妙行寺
鎌倉時代の日蓮宗の寺院に上野地区の「本重寺」があります。南アルプス市を舞台に活躍した甲斐源氏加賀美一族の中でも悲劇の主人公として知られる秋山光朝-。中野城あるいは雨鳴城で自害したと伝わる光朝の遺子光季によって再興されたといわれる寺院で、上野城(椿城)の一角を成す寺院です。
上野城は椿の花が多かったことからまたの名を椿城とも呼ばれています。鎌倉時代に甲斐源氏の武将小笠原長清の孫盛長が築いたとされています。現在では本重寺をはじめ住宅や畑地の広がる一帯ですが、随所に残る五輪塔群に中世の面影を残しています。
樹木も豊富
山の裾野を彩るサクラやスモモなどの春の景色は2011年5月13日号「根方を彩る春の風景」でご紹介しました。市之瀬台地の最も高い位置にあるお宅の庭に、ご夫婦が大切に守り育み続けている大きなカキの木があります。県指定天然記念物の「中野のカキ」です。エブクという小さな実をつける古種ですが、これほどの巨木は珍しく、県外からも見学者が訪れます。この木を守られているご夫婦は御年90歳を超えられており、まさにご長寿の木といえますね。
湯沢地区には「湯沢の思い杉」(県指定天然記念物)があり、寄り添うように天高く伸びる二本の幹には感動すら覚えます。その他にも湯沢のサイカチや平岡のヤシャブシなどなど、まだまだいくつもの巨樹・古木と、これにまつわるエピソードがあります。
祈りの姿と伝統
1月14日は小正月です。根方の各地でも道祖神さんに飾り付けがされ、どんど焼きや獅子舞の奉納、舞い込みが行われました。各地で奏でられた笛や太鼓の音は伝統ある本物の音色といってもいいでしょう。
下市之瀬の獅子舞(県指定無形民俗文化財)は雌獅子、曲輪田峯村小路の獅子舞(市指定無形民俗文化財)は雄獅子で、ともに村まわりや舞い込みなどの伝統を色濃く伝える獅子舞です。
道祖神には他の地域にもみられるオヤナギ以外にもフジノヤマと呼ばれる梵天(ぼんてん)飾りや、田頭地区では弓矢の姿をした珍しいものもあります。またどんど焼きも色々あり、特に曲輪田地区ではオコヤ作りの伝統が伝わります。
【写真】曲輪田峯村小路のオコヤ、曲輪田横久根小路のどんど焼き
これまでご紹介してきたとおり、山方と原方を結ぶ根方地域にはさまざまな魅力があり、さまざまな人の息吹が感じられます。
南アルプス市はその立地から山岳観光を大きな魅力の一つにしています。さらに、山と人と里とのつながり、その歩み(=歴史)を考えたとき、その地域だけのオリジナルな魅力がいっそう増すと思います。
そんな魅力を伝えようと、来月いよいよ「Mなび」の文化財版がスタートします。パソコンや携帯電話から地域の文化財などの魅力を検索でき、音声ガイドを聞きながらまちめぐりができるシステムです。
その魅力を知っていただこうと「文化財Mなび」のお披露目もかねて3月4日に市之瀬台地を巡るツアー「語り部と歩くふるさとの文化財~眺望の大遺跡群 市之瀬台地を歩く~」も開催します(詳細未定。内容は市のHPでお知らせします)。
今回でいったん「根方」シリーズは終わりますが、続きは「文化財Mなび」で現地を訪れつつお楽しみいただければと思います。
では、また次回、新たなテーマでお会いしましょう。
【南アルプス市教育委員会文化財課】