白根地区飯野に常楽寺というお寺があるのをご存知でしょうか。このお寺の門前脇には、寺の守護神と伝えられている白狐を祀る小さな石の祠(ほこら)があり、それにまつわる昔話があります。
慶長年間(1596~1615)には、降り続いた豪雨により河川が氾濫し、一瞬の間に全てのものが押し流されてしまいました。ちょうどこのとき円隆和尚という、布教を続ける和尚さんがこの荒地を通りかかったところ、一匹の白狐が現れ、道案内をするように和尚さんの前を振り返りながら歩きます。和尚さんは白狐の後をついていき、どのくらい歩いたか、白狐に気をとられていたため、時間の過ぎるのにも気づきませんでした。今まで前に居たはずの白狐はいつの間にか姿を消してしまい、初めてわれに返った和尚さんは小高い丘の上に立っていました。和尚さんはこれこそ仏の導きに違いないと、この地の有力者であった中込民部という人物にこの話をし、寺院建立に対する応援を依頼します。信仰の厚い民部も快く承諾して早速建築に取りかかりました。そして、承応3年(1654)に立派な寺院が完成し、同時に門前に白狐の祠を建てて守護神としたそうです。このときの和尚さんは伝嗣院の住職となり、その後常楽寺の開祖にもなったということです。
本尊の阿弥陀如来像の上には白狐の彫刻があり伝説を偲ばせます。
【写真・左】=本尊の木造阿弥陀如来立像。県指定文化財。鎌倉期のものといわれています。一昨年には県立博物館開館一周年記念特別展「祈りのかたち-甲斐の信仰-」で南アルプス市を代表する仏像として紹介されました。
【写真・右】=白狐の彫刻
白根町誌よると、常楽寺はもともと真言宗の寺院として建てられたとあります。その後、昔話にあるような河川の氾濫によって寺院の大半は流されてしまったそうですが、承応3年に円隆和尚を曹洞宗伝嗣院から迎え常楽寺を曹洞宗寺院として開山したといいます。
【南アルプス市教育委員会文化財課】