北岳など南アルプス山岳観光の拠点となる南アルプス市芦安芦倉の「南アルプス芦安山岳館」の館長、塩沢久仙さん=南アルプス市上今井、写真=が亡くなった。75歳だった。北岳固有の高山植物の保護、山岳遭難者の救助活動、山岳文化の発信などに力を注いだ。
中学生のころから登山に魅力を感じてのめり込んだ塩沢さんが、本格的に南アルプスに関わることになったのは、1965年に夜叉神峠小屋の管理人になってから。毎日のように登山者らの食料などの荷揚げを繰り返し、多くの時間を山で過ごしてきた。85年には広河原山荘の管理人となり、2003年からは芦安山岳館の初代館長を務めていた。
北岳の固有種・キタダケソウなど高山植物の保護に尽力。全国に先駆けて高山植物の譲渡禁止を柱とする、山梨県の保護条例制定(1985年)に携わった。
30年以上の親交があり、南アルプスの山岳遭難防止に向けて活動する「大久保基金の会」の清水准一会長(67)は「謙虚で、多様な人脈を生かして幅広い活動をしていた」と振り返り、「南アルプスの魅力を世に発信し、価値を高めた人」と功績を挙げる。
塩沢さんが30~40代のころには、警察から依頼を受けて山岳救助に力を尽くした。清水さんは塩沢さんの遭難者対応について「山に来てくれた人に対する感謝の気持ちを感じた」と振り返る。
75歳の誕生日だった今年9月24日、南アルプス・栗沢山(2714メートル)の山頂付近でガイド中に意識を失い、甲府市内の病院で死亡が確認された。病死とみられる。
広河原山荘の運営を引き継ぐ次男・顕慈さんは父の「嫌な仕事を一番にしろ」との言葉が印象に残り、今も大切にし、山小屋では誰よりも早く起床するなどしている。「父の担っていた仕事の一部でしかないが、時代や山に来る人の要望の変化を捉え、柔軟に山と共生したい」と語る。
取材で山岳館を訪れると、塩沢さんは毎回、穏やかな笑顔で館内を気さくに案内してくれた。まだまだ聞きたいことがたくさんあったのに残念でならない。
【山梨日日新聞 12月23日掲載】