山あいに約400人が暮らす南アルプス市芦安地区。高齢化が進む地域で毎朝、新聞を配達しているのは芦安中の全校生徒15人だ。坂道を徒歩で上りながら、一軒一軒配る生徒の姿は半世紀続く光景。笑顔であいさつを交わし、毎日欠かさず新聞を届けている。
「おはようございます。新聞です」。午前6時、周囲が暗いうちから、生徒たちの「仕事」は始まる。同市在家塚の渡辺新聞店から配送された90世帯分の新聞を、5人で分担して配達する。
1人当たりの担当は約20世帯。ショルダーバッグに詰め込んだ新聞の重さは、ページ数が多いときには10キロ近くになる。1日おきに交代で配っていて、都合の悪い場合は仲間同士でフォロー。新聞が届かない日はない。
50年以上続く全校生徒による新聞配達。大人の配達人を確保するのが難しい芦安地区で、貴重な戦力になってきた。親子2代で配達を経験している世帯も多く、かつて父親も配達していた2年の清水優奈さん(14)は「親の世代から続いている。すごい」と話す。
一方、配達が始まったという1955年ごろ、約80人いた生徒は現在、5分の1以下に。配達のペースは3日おきから1日おきに増え、以前は高校受験を機に“卒業”していた3年生も受験勉強の傍ら、配達を続ける。「伝統を絶やすわけにはいかない」。3年の岡崎英一君(15)はこう力を込める。
「いつもありがとね」と玄関先で出迎える住民も少なくない。「子どもたちが笑顔で声を掛けてくれるので、今日も頑張ろうという気持ちになる。毎朝欠かさず配達してくれる生徒たちは地域の誇り」と芦安芦倉の名取文子さん(77)。生徒たちは地域に元気も届けている。〈文=青柳秀弥、写真=広瀬徹〉
(「ふるさと・やまなし元気になあれ」は随時掲載します)
(写真)早朝、地域の駐在所に新聞を届ける岡崎英一君(左)=南アルプス市芦安芦倉
【山梨日日新聞社 12月13日掲載】