芦安山岳館は、山梨日日新聞社とタイアップして「芦安山岳館メール」を発信しています。南アルプスの最新情報や観光情報、山梨日日新聞に掲載された山岳に関係する記事などをサイトに掲載し、さらに会員登録者にはダイジェスト版メールもお届けします。お楽しみください!

南アルプスNETホームページへ

山岳関連ニュース

季節の便り

山梨県内のニュース

プロフィール

 南アルプス芦安山岳館は、2003年3月21日に開館しました。山岳文化の発掘と研究・継承、自然保護や安全登山の普及、山を仲立ちとしたさまざまな交流の実現を目的としています。氷河時代から数万年を生き続けるキタダケソウやライチョウが住む3000メートルの高山、生活と結びついて文化や産業、技術を育ててきた里山。芦安地域は自然、文化ともに魅力に満ちた地域です。山岳館はその一端を知っていただく施設です。また、この施設は、県産材の利用促進を図ることを目的としたモデル的施設でもあります。多くの方に見学していただき、県産材の良さを知っていただきたいと思います。

お知らせ

 南アルプス市芦安山岳館メールは、2023年3月末をもって配信を終了しました。今後は、南アルプスNetやFacebookなどで、山岳情報や観光情報などを随時発信していきます。

南アルプスNet
 こちらをご覧ください。

【山岳館便り】

登山者守る「若き山番」 北岳に山岳救助のスペシャリスト

20090824_001 国内第2の高峰・南アルプスの北岳に山岳救助のスペシャリストがいる。山頂近くの山小屋「北岳肩の小屋」に勤める森本千尋さん(29)。平均的な登山で6時間かかるとされる広河原~肩の小屋間を1時間半で登る脚力を生かして、いち早く現場に駆け付け、迅速な処置と的確な判断で足の切断を免れた人もいる。「若き山番」が北岳の山岳観光を支えている。
あきらめない
 「登山道で倒れている人がいます」。13日午後1時ごろ、登山者からの連絡を受けると、森本さんは山小屋を飛び出した。現場には60代の男性が倒れ、呼吸をしていない。自動体外式除細動器(AED)がある白根御池小屋に無線連絡し、中間地点でAEDを受け取ると、現場に舞い戻った。
 しかし、AEDのパッドを胸に当てても心電図が測れない。男性が所持していた薬を飲ませたが、効果はなかった。霧のため救助のヘリも期待できそうにない。警察からの指示を待つ間、山小屋の従業員と交代で、約4時間にわたって心臓マッサージを続けた。
 結局、午後7時、山小屋に宿泊していた医師が男性の死亡を確認。翌日、ヘリで遺体が収容された。森本さんは言う。「少しでも可能性があるなら、あきらめたくない」
 標高3193メートル。国内で2番目に高い山、北岳。最高峰の富士山は初心者でも比較的登りやすいのに対し、北岳は経験者にとっても難しい山とされる。通報を受ける警察も、高所の山岳事故や遭難は、森本さんら山小屋に詰める山番に頼らざるを得ない。
 旧芦安村出身の森本さんは祖父、父と続く3代目の山番。山梨学院高時代は駅伝、同大進学後は山岳競技にのめり込んだ。1~3年時に国体に出場、踏査競技で6位入賞したこともある。2年間自衛官を務めた後、4年前から父親が経営する山小屋で働いている。
的確な判断
 下界とは隔絶された環境だけに、素早い判断と臨機応変さが求められる。山小屋で働き始めて3年目のことだった。八本歯と呼ばれる岩場で転んだ男性がすねを骨折した。連絡を受けたのは現場とは反対側の登山コース。急いで現場へ向かった。
 登るにつれて深くなる霧。無線で受けた指示は「山小屋まで運んで天候の様子を見てヘリを要請する」というものだった。しかし、森本さんには「下れば霧が薄くなる」との確信があった。
 ザックから出したザイルを体にまくと、男性を背負った。「霧が切れるところまで下りればヘリを呼べる。1日たってからでは、足を切断する可能性もあった」。男性はヘリで搬送され、無事救助された。後日、本人や親族から寄せられた感謝の言葉を聞いて思った。「あの判断は間違っていなかった」
 6月~11月までの登山シーズンは山小屋に詰め、横浜市内に住む妻と顔を合わせるのは、半年間で3回程度だ。
 行方不明の捜索、遺体収容…。悲惨な現場を目にすることが少なくない中、胸に秘めた使命感が森本さんを支えている。「これからも的確な判断と迅速な行動で多くの人を助けたい」。若き山番は今日も登山客を見守っている。〈雨宮 悠希〉

(写真)登山道脇で約4時間、心肺蘇生を行ったことを振り返る森本千尋さん=南アルプス(標高2900メートル付近)

【山梨日日新聞社 8月24日掲載】

≪ 前の記事 | トップページ | 次の記事 ≫